第2回 もし、お父さんが借金まみれで亡くなったらあなたはどうしますか?

今回からは、限定承認の手続きのお話をします。この手続きは奥が深く何回かに連載させていただきます。(第1回はこちら)

1.限定承認とは(民法第922条)

「承継した財産を換金して負債の弁済に充当する義務を負うが、被相続人が残した財産の範囲でのみ責任を負い、相続人個人の私財をもって負担することはない。」という手続きです。

2.手続きは、「自己のために相続の開始があったことを知ったときから」3月以内に、共同相続人全員で家庭裁判所に限定承認する旨を申述します。(民法第923条、924条)

この「・・・知ったときから」つまり起算日はいつからかは、相続放棄の場合も同じですが、裁判所では、昭和59年4月27日の最高裁の判例を基準に判断しています。

要旨:
被相続人(亡くなった人)の生活歴。被相続人と相続人との間の交際状態その他諸般の状況からみて当該相続人に対し、相続財産の有無の調査を期待することが著しく困難な事情があって、相続人において相続財産が全く存在しないと信ずるについて相当な理由があると認められるときには、相続人が各事実を知った時から熟慮期間を起算すべきである。

要約しますと、この起算日は、原則として死亡時から起算するものであり、例外として、相続人と被相続人若しくは親族間で疎遠になっていて、全く死亡の事実を知らされていない場合などは、その相続人が被相続人の死亡を知った時から起算するとしています。
実務では、被相続人が誰かの保証人になっていて、被相続人の死亡後3月を経過した後に、債権者が相続人に保証債務の履行を求めてくることがあります。
この場合、相続人は、被相続人が誰かの保証人になっていた事実を全く知らなくても、被相続人の死亡の事実を知って3月を経過していれば、相続放棄や限定承認ができません。このことは、我々のような実務の専門家を含め、意外と知られてないように思われます。

なお、3月以内という熟慮期間は、期間満了前に家庭裁判所に「相続財産の調査ができていないため延長したい旨」の申立てを家庭裁判所の裁量の範囲内で何度か繰り返し出来ます。この申立をすれば、また3月延長され、結果的に6月以内まで延ばされ、また6月以内に申立すれば、結果的に9月以内まで熟慮期間が延びます。

次回に続きをお話します。

執筆者    司法書士 坂井季之

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